グラナドス初期の作品で、けして複雑な仕組みは使っていないし、とても短い小品集だが大変美しい。シューマンの初期の作品群を思わせるこの曲集は、20歳の青年がいずれ大輪の花を咲かせる事を予感させるに充分な詩情を持っている。「序奏と7つの詩的なワルツ集」という名前で出版されていることもあるが同じ作品である。序奏は2拍子のため、ワルツとは言いにくいので、このような書きかえがあったのだろう。
●序奏
ffで活気あふれるフレーズでスタートする。音価をしっかりそろえたい。この部分は da capo した後も繰り返すこと。5小節目からはテンポが落ちやすいので気を付けよう。最後の Meno molto の部分は終止がドミナントになっており、次へ続くワルツへ連続して演奏される。
●第1曲 Melodioso
第一主題からとても美しい。
中間部では短いながらも第一主題の展開部を持っており、すぐに第一主題に戻って終始する。
主題の旋律は、おもに4小節単位で上昇する形を取っているが、この部分をどう歌うかで、魅力的な曲にもなるし、平坦な曲にもなってしまうだろう。
●第2曲 Valse noble
直訳すれば「高貴なワルツ」であるが「情熱的なワルツ」としている出版もある。どちらかというと前者の方がしっくりくる気がするが、個人的な感じ方の違いもあるだろう。情熱的な演奏も否定しないが、節度のある上品さは保っていて頂きたいものだ。
中間部の軽妙な部分ではBでは最低音など吹きにくい音も出てくるので、必要以上に大きくならないように注意したい。
●第3曲 Valse lente
大変ロマンティックで悲しみにあふれる感じの曲。
上昇1回に対して下降が2回という、悲しさを表現する常套句が生きている。中間部で第二主題が跳ねるような明るいフレーズで奏されるが、この部分も一時的に射した日差しのように、愁いを隠したまま奏したいところだ。
●第4曲 Umoristico
ユーモラスなワルツ。はずんだ感じのフレーズが繰り返されるが、フレーズ頭の8分2つを少し詰めて、4分2つで元に戻す感じで奏すると独特のリズム感が生まれて面白い。中盤からの第二主題はオクターブの跳躍を含みながら、ロマンティックに書かれているので、跳躍後の高音は少し音圧を抜いて演奏すると綺麗だろう。くれぐれもアクセントがつかないように。
●第5曲 Allegretto
ワルツ・ブリランテとしている出版もある。9度の下降や複付点を伴って跳躍する旋律が大変優雅なワルツ。複付点音符はrit. 気味にたっぷりと奏して a tempo すると心地いい揺らぎが増すだろう。やりすぎは禁物だが優雅に演奏したい。
●第6曲 Quasi ad libitum
センチメンタルなワルツとも呼ばれている。気だるい、たゆたうような旋律を切なく歌い上げてほしい。こういった旋律は抑揚を大きくとらないと、極めて退屈な曲に聞こえてしまう。大げさなぐらい膨らませて始めて、聴衆は揺らぎが感じられる。
●第7曲 Allegretto
蝶のワルツとも言われている。その名の通り、ヒラヒラと舞うような音型がきらびやかな効果を生んでいる。前半は da capo 後も繰り返す。後半はいくらか tempo を落として優雅に舞うような旋律を歌いまわしてみよう。
●第8曲 Presto
極めて速い tempo で奏される「素晴らしいワルツ」という少々大げさな別名を持つワルツ。ワルツといっても前半は6/8で書かれており、後半に至っては3/4と6/8の複合で、vivace も入り乱れての2拍子系中心になっている。大変忙しい曲なので、それどころではないかもしれないが、体が動いてしまうようなワルツの舞踊感は失わないように演奏してほしい。序奏と同じようにドミナント終止となっており、この後第1曲のワルツを演奏して終了する。同一曲だが、一回目とは異なるような終止感をしっかり伝えるようにしよう。
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