作曲にあたり、以下のような情景をイメージしながら作曲しました。演奏、表現の参考にしていただければ幸いです。
1.男がをじっと遠くを見つめている。彼がどこにいるのかは分からない。意識はその視線の先にだけ注がれている。目付きには鋭さがあるがその周りに刻まれたシワのせいか幾分か柔和な表情にも見える。
彼が見つめている先には木が立っている。彼との距離が分からないため大きくも小さくも見えるが、佇まいから察するに幾度の季節を乗り越えてきたのだろう。その存在が余りにも自然で立っていると言うよりは最初からそこに「いた」ように感じられる。その周りには何も無い。他にも木や建物があるのかもしれないが、彼の世界にはその1本の木しか存在しないようだ。
「木を見ている」ように見えていたが視点がそこで止まっているだけだった。 彼の視界には木から枯れた葉がひらひらと落ちる様が先程から映っているはずだが、まぶたが微かに反応するだけで揺れる葉を目で追うそぶりが見られない。ふと彼が何かを言おうとしたが言葉が喉から出てくるより前にスッとまぶたが閉じた。
2.いつもの通りに顔を洗い仕事に取りかかる。意志の強さとバイタリティだけが取り柄だ。周りからは「君は若いから」とか「後になったら分かるだろうけど」と言った言葉が枕詞のように付け加えられていたが、自分の正しい道を進む事が正義だと信じていた。そもそも後になったら分かることをどうやって今知れと言うのか。
そんな自分が信念を持って続けてきた仕事がやがて人に認められ、段々と大きな仕事も任されるようになっていた。 周りと衝突する事も多かったし失敗も一度や二度ではないがその度に成長している事が自分でも分かる。自分としては何も変わっていないつもりだが少しずつ大人になっているのだろうか。
3.今までを振り返ると忙しくも充実していたように思われた。そう言えば以前は営業スマイルしかできなかったのに最近は自然に笑えているのかもしれないな、と自分で気付きまた微笑んだ。「世の中にプラスとマイナスの2つの要素しかなかったとしたら、あなたの一生の合計はプラスですか?それともマイナスですか?」そう聞かれたら何と答えるだろう。荒唐無稽な質問だとは分かっているが自分の中で考えを巡らせていた。机から目を離して虚空を見つめた。
4.男がをじっと遠くを見つめている。 彼が見つめている先には木が立っている。 木から枯れた葉がひらひらと落ちる。彼にはもう全て理解出来ているのだろう。絞り出すようにつぶやいた。 「人生ってこんなもんさ。」
(庵原良司)
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