三重県の吹奏楽団「白子ウインドシンフォニカ」による委嘱作品。
2018年7月1日、三重県文化会館大ホールにて、私自身の指揮により初演させて頂いた。
三重県にゆかりのある文化財として「熊野勧心十界曼荼羅」という曼荼羅図がある。
元々は熊野信仰の普及のために「熊野比丘尼(クマノビクニ)」と呼ばれる尼僧が携え、絵解きをしながら各地を回った。
「心」の文字を中心に仏界、菩薩界、声聞界、縁覚界、天界、人間界、修羅界、畜生界、餓鬼界、地獄界、の十界が描かれている曼荼羅図であるが、その絵の上方に「老いの坂」と呼ばれる、季節の移り変わりと共に人間の誕生から死までを虹のような半円形に描かれた部分がある。本作品はこの「老いの坂」をヒントに人間の誕生から黎明期、少年から壮年期、そして穏やかに衰え、安らかな終焉を迎える人生をスケッチした作品である。
なお、この曼荼羅図は作曲の依頼を頂く前に、偶然テレビの「放送大学」で初めて目にしたのであるが、なぜかとても興味が湧き「絵解き本」(解説書)まで購入していた。
そんな矢先の作品の委嘱であったため、「三重県」という共通項もあり、「この曼荼羅図をテーマに」と思ったが、この図の全体像を10分の作品の中に描くには図を構成する要素があまりにも多く、曼荼羅の一部分である「老いの坂」からインスピレーションを得て、「生命=いのち=人生」をテーマに取った。
演奏する人誰もが、やがて必ず訪れる「死」に対して安らかなイメージを持ち、また「死」に至る道中にある「今」をそれぞれの時期に見合った形で謳歌して欲しい、私自身もそうありたい、と願うものである。
また、この場をお借りして、「白子ウインドシンフォニカ」音楽監督の宮木均様、「白子ウインドシンフォニカ」との出会いのきっかけをくださった事務局長の山口毅治様を始め、初演を飾っていただいた団員の皆様に心よりお礼を申し上げます。
(三澤 慶)
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