第1楽章 アレグロ・モルト
第2楽章 アダージョ(バリトン・サクソフォーンのために)
第3楽章 モデラート(テナー・サクソフォーンのために)
第4楽章 アレグレット(ソプラノ・サクソフォーンのために)
第5楽章 レント(アルト・サクソフォーンのために)
第6楽章 アレグロ・モルト
1990年12月30日作曲、トルヴェール・クヮルテット委嘱作品。
1988年にエジプトを訪れてから、民族音楽の中での「微分音」に興味を持ち始めた。そういった音は、それぞれの民族音楽の中ではごく当たり前の音なのだが、西洋音楽の音律からは少しばかり歪んだ音と言えるだろう。そうした民族音楽的な音を用いて、この四重奏曲の第3、第4楽章を作曲した。この二つの楽章は、ほぼ即興演奏で成り立っている。ヘテロフォニー的な即興。
どの民族音楽にも、完全5度という音程はほぼ存在すると思う。タイの7等分平均律といえど、きいてみると、拠り所とすべき完全5度が存在するようにきこえる。すると、この四重奏曲第2番の第4楽章で用いた音律は、タイの7等分平均律に近いかもしれない。「ド」から「ソ」までを5等分し(そのため、長調とも短調ともつかぬ響きになる)、「ソ」から「ド」までを4等分した(ため、導音があるような、はたまたミクソリディア旋法のような響きとなる)。楽譜には、何セント(半音は100セント)高く、とか低く、と指示してある。
その一方で、四分音(半音の半分)も使っている。作品の冒頭が四分音によるクラスターで始まっており、象徴的に何度かこの響きが現れる。
作品の構成としては、第1番と似ており、6つの楽章のうち、ごく短い第1楽章と第6楽章を両端に置く。
第2楽章から第5楽章は、それぞれ、バリトン・サクソフォーンのために、テナー・サクソフォーンのために、ソプラノ・サクソフォーンのために、アルト・サクソフォーンのために、と題され、各楽器の妙技が披露される。
第1番、第2番とも、伝統的な形式を踏まえつつも、それを壊し、歪めながらも構築していくことに主眼を置いている。そんな中から少しでも日本的な空間を表現できないかと考えた。似たような構成の作品としては、吹奏楽のために作曲した「交響曲」(1990)。
(伊藤康英)
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