日本フィルハーモニー交響楽団テューバ奏者、柳生和大氏の委嘱により2018年秋に作曲。オーケストラの中ではあまり目立った出番があるわけでもなく、金管セクションあるいは全体の低音を支える役割の多い楽器であるが、私にとってテューバの魅力の一つが「歌う楽器である」ということである。この楽器のソロ曲はいわゆる金管楽器的なパッセージを含むものが多く、それ以外となると他楽器の編曲もののレパートリーが多い印象があるが、私は敢えてこのレパートリーに、近代フランス音楽の流れを汲みつつしなやかなメロディを持った支流を開拓したいと願っていた。この曲はそういった想いから作曲した。
曲名のアラベスクとは(ドビュッシーの同名曲を想起する人も多いだろう)、元々イスラム教モスクの壁を彩る幾何学文様の反復からなる美術様式のことを指す。その後音楽に転じ、ポリリズムやアルペジオが多用された幻想的な楽想をもつ音楽に使われることが多い。
今回はそれに倣い、前半部分は自由な調性感で、ポリリズムが編みこまれたピアノのアルペジオを下地に、テューバが伸びやかに歌う。中間部はドビュッシーへのオマージュを奏で、後半部は前半・中間部を再現した後、ニ長調の明るく優美な性格に集約し高揚に達し曲を締めくくる。
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