オブロー・クラリネット・アンサンブルの委嘱によって2008年に作曲し、8月に開かれた同アンサンブルのサマー・コンサート「オブローの夏休み」で初演された。2010年4月に「オブロー・クラリネット・アンサンブル リサイタルVol.21」で再び採りあげていただくことになり、これを機に若干の改訂をした。
初演時、私は多忙を理由に練習にも本番にも一切立ち会わず、いわば“書きっぱなし”の放漫な作曲家であった。ところが、後日送られてきた演奏会の録音を聴いて、正直なところ驚いた。決して解りづらい曲ではないものの、散文的なニュアンスや間のとりかたが絶妙で、作曲者としてほぼ文句のつけようがない演奏だったのだ。二、三の残された問題点も、それは演奏家の責任ではなく、書き手の不備が原因であることが聴けば聴くほど理解できた。そんなわけで、再演に際しての改訂は、言葉足らずだった筆運びを正すことに終始し、結果的に全体の小節数が多少増えた。
ヨハン・セバスティアン・バッハの姓の綴り、すなわちB-A-C-Hをドイツ音名にあてはめ、これをモティーフに楽曲を創作する試みは、これまでにも多数の作曲家によって行われてきた。接近した半音進行が含まれるため、調性に別れを告げた近・現代の作曲家にも好まれた素材である。私は初めこのアィディアをギター独奏曲に採り入れ、親しいギタリストの友人のために「バッハの名による3つのソネット」として書いた。1983年のことであった。クラリネット・アンサンブルのための「3つのバガテル」は、27年前のこのギター曲を原型としたもので、もちろん細かい変更はいたるところにあるが、テーマの組成と発展のあらましはそのままになっている。
思い返せば、20代の後半に初めて出版され、レコーディングされた私のデビュー作もクラリネット・アンサンブル作品であった。演奏家との親交のなかから、この分野の作・編曲を量産していた時期もあったのだが、8重奏のオリジナルを書くのは本当に久し振りのことである。すばらしい演奏で私を刺激してくださったオブロー・クラリネット・アンサンブルの面々、そして私に作曲を勧めてくださったオブローの初代メンバー、斎藤紀一氏にこの場を借りて感謝の意を表させていただきたい。(森田一浩)
【演奏時間】
I. 約2分30秒
II. 約3分10秒
III. 約3分10秒
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