Simoom シムーンはアラビア半島や北アフリカの砂漠に吹く砂嵐です。6月から8月にかけて起こり、温度は54℃を越え湿度は10%を切るとか。竜巻のようになって人間や動物を窒息させるほどなので別名を「毒の風」と言います。
曲は、そのような熱風をイメージしてアラブ音楽風の旋律とリズムで構成されています。ただし、実在するアラブ音楽の音階構造(maqam マカーム)、リズム構造(iqa イーカー)を用いているわけではなく、アラブ音楽奏者との共演を経て私のなかに育ってきた想像の産物です。
基本的なリズムは11/8拍子ですが、4/4+3/8→3/4+3/8+1/4→2/4+3/8+2/4→1/4+3/8+3/4→3/8+4/4→1/4+3/8+3/4→2/4+3/8+2/4→3/4+3/8+1/4というように3/8が規則的に浮動します。また和音は随所で上部と下部がふたつの異なる和音を積み重ねた形になっています。たとえば上部=Emajor7、下部=D♭+、というような。つまりこの曲は演奏者にとっても聴き手にとっても耳慣れないサウンドとリズムをもつ相当毒性の強い「偏屈」なものなのだろうと思われます。
今まで食べたことのない強烈なスパイスを使ったエスニック料理みたいなものでしょうか。嫌いな人は顔をそむけたくなるかも知れませんが、一度好きになったら毎日でも食べたい、もっと刺激が欲しい、と病み付きになっても作曲者の関知するところではありません。
最後のE-3という部分は、もし演奏者が望み、スタミナが許せば何度でも繰返して下さい。そのうち砂丘の彼方からアラブの軍勢が鼓笛隊を先頭に粛々と迫ってくる光景が立ち現われる…かも。
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