バンド維新2009のために作曲されたこの「織られた時III」は、一つの楽曲と言うよりは音楽の一断片であり、より大規模な作品で展開されるさまざまな考えの一種のミニアチュールである。
曲は、冒頭に奏される2つの音の周囲(上下)に生成する和音によって作られている。ゆったりとした和音による時間や、その中に聴こえてくる細かい動きが作る時間。また、さまざまなリズム断片や違った速さのパルスが、異なる楽器に割り当てられる、言わば個の時間や、集団が作るダイナミックな時間。そうした複数の音楽的時間の作り出す綾を、この曲のタイトルは示している。素材は、陳腐なまでに単純化されていて、その継起は歌うべきものを持たない根無し草が作る「ある荒涼とした原風景」である。それは浮遊し、とらえどころのない時間。曲の中間でやっと規則的なリズムが表われ、何か確固とした表現に至るかに見えて、それは再び虚無の中に沈潜する。同じ旋律の断片が何度も異なった和声を従えて戻り、その都度音の響きの表面のざらつきは異なり、凹凸につまずく。その凹凸はダイナミックスや編成、そして何よりも響きの協和不協和の度合いによって作られる。
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