フェルディナンド・ダヴィッドは、19世紀ドイツ・ロマン派を代表する作曲家・ヴァイオリニストです。メンデルスゾーンと親交が深く、彼の代表作であるヴァイオリン協奏曲の初演にソリストとして立ち会ったことでも知られています。また、ライプツィヒ音楽院の教授としても後進の育成に尽力しました。
本作《トロンボーン小協奏曲 変ホ長調》は、1837年に作曲されました。献呈先は、当時ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の名手として知られていたトロンボーン奏者カール・トラウゴット・クヴァイザー。トロンボーンを独奏楽器として前面に据えた協奏的作品は当時としては非常に珍しく、本作は楽器の技術的・表現的可能性を大きく広げた革新的な作品として高く評価されています。
構成は単一楽章ながら、「急 緩 急」の三部形式に則っており、協奏曲としての体裁を十分に備えています。冒頭の印象的なオーケストラによる序奏は、提示部の第二主題から始まるという当時としては斬新な構成が採られており注目に値します。その後に現れる第一主題は堂々とした旋律で、世界中のトロンボーン奏者が音色やダイナミクス、細かいリズムの処理に工夫を凝らして演奏に取り組む、まさに代表的なフレーズです。対照的な第二主題は、柔らかく甘美な旋律で、まるで天から降り注ぐような美しさをたたえています。この後も、スライド・テクニックや跳躍、リップトリル、カデンツァなど、聴かせどころが満載で、続く中間部では葬送行進曲が登場。トロンボーンの歌うような旋律と深みのある音色が聴衆の心をとらえます。再び冒頭の主題が現れる終盤では、さらに技巧的なパッセージが加わり、楽器の華やかさと俊敏さが一層際立ちます。
本作はトロンボーン・ソロのための重要なレパートリーのひとつとして、現在でも世界中の奏者に愛され続けています。限られた当時の金管楽器の性能を考慮しながらも、音楽的な充実を見事に実現しており、ダヴィッドの作曲技法と、演奏家への深い理解を感じさせる名作です。
今回の吹奏楽版の編曲にあたっては、編曲者自身もトロンボーン奏者であることから、ソリストの視点を重視し、「こう聴こえてほしい」と願う伴奏の響きを意識して書かれています。弦楽器の奏法や質感を再現するため、木管楽器にやや難易度の高いパートが含まれている箇所もありますが、原典版が現存しない今、「オーケストラ版よりもこの吹奏楽版のほうが魅力的だ」と感じていただける作品になれば幸いです。
最後に、本編曲の初演に際し、演奏を引き受けてくださった航空自衛隊航空中央音楽隊の皆さま、そしてソリストを務めていただいたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 首席トロンボーン奏者オラフ・オット氏に深く感謝申し上げます。
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